差異空間って、何?
天石屋戸に籠もったアマテラスを外に引き出すため、アメノウズメは八百万の神々の前で、乳房と陰部を見せて踊った。それを見た神々は、高天原が揺れるほどどっと笑った、と『古事記』には書いてある。
けれども、なぜウズメが陰部を見せ、なぜに神々が笑ったか、その理由はつまびらかでないから誰にもわからない。わからなければ放っておけばよいのだが、学者とは放っておけない因果な商売である。そこで何とか説明しようと、頭を悩ます。
ある人は、ウズメの仕草が滑稽だったから神々が笑ったのだという。またある人は、陰部を見せるのが一種の呪術だと考えた。
フーコー流にいうならば、この神話は、現代とは異なる認識基盤(エピステーメー)のもとにあったということになろう。ウズメは、古代のエピステーメーを解読する手がかりだというのである。
筆者ならば、ウズメの神話を「差異空間の神話」と呼ぶところである。要するにわけのわからない神話ということだ。
このように理屈づけはさまざまだが、当の神々の笑いの理由はやはり不明である。
ところで、こうしたわからなさは古代の神話にばかりあるのではない。私たちの身の回り、いたる所にちらほら見える。
スカートの汚れに頓着せず、駅のホームにべったりと座り込む女子高生。揺れる電車の中、人目もはばからず、まつげカールに余念のない女の子。髪は茶髪を通り越し、目にもまばゆい金髪だ。
モラルの低下を唱えることはたやすい。が、実のところ、彼女たちには同じ時代を生きる者に、どこか違うぞと思わせる、一種のわけのわからなさがある。ならば、ウズメの神話と同じではないか。はたして、彼女たちのエピステーメーとは何か?
彼女たちは、時代を読み解く鍵である。現代のアメノウズメである。茶髪金髪が理解できないで、ウズメの神話が理解できるとは思えない。現代における「差異空間の神話」がここにある。
♣『現代思想』2002年5月号「研究手帖」に掲載したものを修正して転載しました。
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