へるめす通信6
そもそもアポロンは、なんでヘルメスの洞窟の家にやってきたのか。
それは、(当然のことながら?)すっかり有名になったアポロンの予言の能力によって、である。
驚くべきことに、アポロンは、翼の細長い鳥を見て、瞬時に牛殺しの犯人がヘルメスだと悟ってしまったのだ。
どうも、鳥を見て占うというのが、アポロンの得意技のひとつであったらしい。
鳥のどこを見たら、そんなことがわかるのか?
凡人には計り知れないこの凄い技。
とにかく、尋常の神のなせる技でないことは確かである(もちろん、神はみな尋常ではないのではと言われたら、そうなのだが……)。
そういう意味で、ヘルメスは、敵に回すと最もやっかいな人物を敵に回したのだった。
ところが、ヘルメスには、そんな心配は不要らしい。彼はどうもこの悪事を明るみに出してほしくて、わざとやったようなのだ。つまり、
「自分の悪事の首謀者だと、一早く確実に察知してくれるのは、……そうだ、アポロンだ!」
というわけで、アポロンの牛を狙った、と思えるのである。
悪事が終わって夜も更けて、ヘルメスが家に帰ると、母神のマイアは彼を問いつめた。
「お前は、なんてことをしたのかしら。きっと、アポロンによって、おまえは連れ去られていくだろう。もしそうじゃなかったら、いつまでも盗人のままよ。」
予知能力のあるアポロンでなくとも、ヘルメスの悪事はすっかりバレバレなのである。
ところが、ヘルメスは、平然とこう答える。
「これは最善の策だったのですよ。」
つまりは、こうだというである。
ヘルメスの父親は神々の王ゼウスであり、神々の頂点に君臨する神である。
だが、母親のマイアは、華々しい夫と異なり、神々のつきあいを避け、親子でひっそりと洞窟に住んでいたのであった。
ゼウスにはたくさんの妻がいて、とくに正妻である女神ヘラはあまりにも嫉妬深かった。
ヘラは、ゼウスに新しい愛人ができたと聞けば、その女性を牛に変え、虻(あぶ)を放って責め苦を負わせるという、徹底したヤキモチ焼きの女神であったのだ。
そんなこんなで、少し遠慮がちになっていたのだろうか。マイアは、暗い洞窟に住み、大勢の神々の中でたったひとり、捧げ物も祈りも寄せられないという、非常に寂しい生活を送っていたのであった。
そして、それはマイアただ一人の問題でない。その息子ヘルメスも、このままいけば、ずっとマイアと同じ、若隠居のような生活を余儀なくされるということでもあった。
ヘルメスは、なんとかしてこの状況を打開したかったのである。つまりは、神々の仲間に入れてもらうきっかけを窺っていたのだ。
そして、生まれたその日に、もう彼は行動を起こした。もしその夢が叶わぬ時は、いさぎよく盗賊の頭になる、とまで言って。
泣かせる。泣かせるじゃないか。単なる乱暴者のはずが、けっこう、いいやつに思えてくるから不思議である。



















