へるめす通信9
というわけで、ヘルメスはゼウスの前に出て……。
—(村人A、突然の登場)あのう、ちょっと質問というか、ささやかな意見を挟みたいのですが。
話をさかのぼらせて申し訳ありませんが、ヘルメスが自分の無実について、「ゼウス神の頭」にかけて誓うっていうのは、なんだか変というか、面白いですね。
—(ジョルジュの孫)あっ、そうそう、それそれ。さっき言おうと思ってたのよ、それ。
ご意見、どうもありがとう。
(ところで、あんた、誰?)
あのね、あなたは、誓いなんか今まで立てたことないかもしれないけど、そんなあなたでも、いつか裁判所に行くことがあったら、誓いを立てることになるのね。たぶん。
それが「宣誓」ってやつなのよ。
宣誓はね、良心に従って真実を述べることを誓うものなのね。民事訴訟でも刑事訴訟でも、証人となったからには、宣誓なしには証言できないみたい。それくらい重要なものらしいのね。
ところで、誓いを立てるものっていうのが、時代や文化によって様々なのよ。
やっぱり記憶に新しいのは、アニメにもドラマにもなった漫画『金田一少年の事件簿』ね。主人公の金田一一(きんだいち はじめ)少年は、難解な事件を解き明かす前に必ず、こう言うの。
俺が必ず謎を解く、「じっちゃんの名にかけて!」
(うっきゃー、かっこいいじゃない!)
—(村人A)あのう、興奮してるところ、悪いんですが、その「じっちゃん」って誰ですか? 金田一京助さんですか。
—(ジョルジュの孫)まっ、あなた、若いのに、なんでそんな渋ーい名前が出てくんの? 今じゃ、その名は、アイヌ研究者か国語学関係者しか知らないかもよ?
あのね、金田一君の言う「じっちゃん」はね、かの有名な「金田一耕助」のことなのよ。
『犬神家の一族』とか『八つ墓村』って小説、聞いたことある? 溝口正史が書いた一連の推理小説に登場する名探偵が金田一耕助よ。
漫画の金田一少年はね、名探偵・金田一耕助の孫という設定なのよ。
—(村人A)はあ、そうですかぁ。
つまり、金田一君は、おじいちゃんである名探偵・金田一耕助さんの名前に誓っているわけですねえ。
そうすると、ヘルメスさんも、神々の王様で、彼のお父さんであるゼウスさんの頭に誓っているということになりますか。
—(ジョルジュの孫)そう、そう。そういうこと。
—(村人A)だけど、何で、誓いを立てるのに、わざわざ何かを持ち出すんですか。「自分は真っ正直にモノをいいました。これはホントです!」てのは、ダメなんですか。
もっと言うとですね、「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます、指切った」ってのが、ありますね?
こんなふうに、嘘ついたら、ハリセンボンみたいな何かの罰があるっていうなら、わかりますよ。ところが、そうじゃなくて、「○○にかけて誓う」ってのは、わかったようで、なんかよくわからないなあ。
—(ジョルジュの孫)それよ。それ、問題はそこよ。それはね……。