へるめす通信10
—(ジョルジュの孫)そもそも、何で「宣誓」ってなものがあるのか、ってことが問題なのよ。
—(村人A)まあ、そういうことになりますね。
—(ジョルジュの孫)たとえば、あなた、さっき言ってたけど、「自分は真っ正直にモノをいいました。これはホントです!」ってのが、どうしてダメなのかってこと。
これについて、たとえば、ホッブズは『リヴァイアサン』の中で、「ことばの力というものは弱すぎて、きっちりと約束を守るように、人を拘束することができない」、てなことを言ってるの。
つまりね、いくらあなたが「オレの言ってることは正しいぞ! 真実なんだ! 嘘はついていないんだあ!!」って、喉をからして叫んでみたところで、当人の喉が痛くなるだけのことで、その実、あなたは嘘をついてるのかもしれないってこと。
少なくとも叫んだだけじゃ、他人は信用してくれないってことよ。
—(村人A)そりゃ、当然ですね。そういう場合もあるでしょ。真実を叫ぶのはパフォーマンスで、実は嘘だったってことはね。
—(ジョルジュの孫)そう、そう。で、そうすると、「自分の言うことが、紛れもなくホントなんです!!」ってことを強調したい時には、あなた、どうする?
—(村人A)うーん、そうですね。それは、さっきも言ったけど、「これが嘘だったら、殺されてもいい」とか、「殴られてもいい」とか、「オレの全財産、取っていい」とか、自分にとって大切な何か、失いたくない何か、痛恨の衝撃を与える何かを引き合いに出しますね。つまり、「担保」ってやつですよ。
—(ジョルジュの孫)そうでしょ、そうでしょ。
ところで、人はどうして何かを誓う時に、自分にとって大切なモノを引き合いに出してくるのか、ということになるのね。つまり、真実を誓う時に、なぜそんなものを差し出すのかってこと。
そこで、ホッブズは、その背景には、人間の情念というものの性格が関係しているっていうわけ。
そして、その最大のものは、「誓いを破ったのがばれたら、どんなひどい結果になるじゃろかい? どんな目にあうのかなぁ。怖いよー、心配だよー。だから嘘は言いませんし、この大切なモノを差し出します。」という、恐怖の感情だと言うのね。
つまり、ホッブズの考え方によるなら、「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます」の中の「ハリセンボン」は、人間の持っている「恐怖」という情念に訴えたものだってことなのよ。
—(村人A)まあ。そうなるかな。なるほどね。で?