へるめす通信14
—(ジョルジュの孫)だから、大学受験が済んじゃって、お守りがいらなくなっても、こんなのは木の切れ端だからってんで、ゴミ箱にポイって捨てられる人、そうそういないと思うわ。
お守りなんて意味ないって思っている人は、そもそも神社に行ってお守りをもらってこようと思わないでしょ? だから、お守りを持っているってこと自体、一種のフェティシズムのあらわれってことになるわけ。
つまり、それって、お守りを単なる木として見てはいないってことでしょ?
—(村人A)まあ、確かにね。さすがに、あっしも、お守りをゴミ箱には捨てられませんよ。だけど、日本人はみんな、そうなんじゃないんですか?
—(ジョルジュの孫)ところがね、あの一万円札に刷られている福沢諭吉。彼がすごいのね。なんたって、十二、三歳ぐらいの時に、お札(ふだ)を足で踏んじゃってるんだから。しかも、偶然踏んだんじゃないのよ、ワザとよ、ワザと。
—(村人A)えー?! なんてことを……。 「このォ、バチ当たり!」って、おっ母さんに叱られないんですかね?
—(ジョルジュの孫)いや、どうも、こっそりやったみたいよ。
あのね、なんで福沢がそんなことをしたかっていうと、まず福沢のお兄さんって人が、お殿様の名前を書道で練習していたわけ。そしたら、何枚か書き損じが出たらしいんだけど、畳に散らばったその書き損じを、通りがかりの福沢がドタドタと踏んじゃったらしいのね。
そうしたら、お兄さんが「コリャ待てィ!!」って怒鳴ったっていうわけ。
「お前は眼が見えぬのか! これを見ろ、なんと書いてある! 殿の名前だ! おのれ、殿の名前を踏みおって!!」
って、もうたいへんな剣幕だったんだって。
そこで、福沢、お兄さんの前では、「私が誠に悪うございました」って謝ったんだって。だけど、心の中では、「殿様の頭を踏んだんじゃあるまいし、名前を書いた紙を踏んだだけなら、構いやしなかろう」と思ったっていうのね。
—(村人A)ははっ、まあ、そりゃそうだ。
—(ジョルジュの孫)ところが、すごいのはここから。福沢の一種、実験精神みたいなものが発揮されるのね。
彼は叱られたのが不満だったんで、それならいっそ神様の名前を刻んだお札なんかを踏んだら、一体どんなことになるだろうかって思ったわけ。それで、まずは人気のない場所でお札を踏んだっていうのよ。
—(村人A)へえー。すごいな、そりゃ。
—(ジョルジュの孫)そうなの。そんな人、今でもそんなにいないよね。だけど、話はそこで終わらないの。
踏んでみても何ともなかったので、福沢は、
「ウム何ともない、コリャ面白い、今度はこれを洗水場(ちょうずば)に持って行って遣ろう」
と思い、便所に行って、実際にお札を踏んだらしいのね。
—(村人A)えー! そこまでやるか!!
—(ジョルジュの孫)さすがにその時は、彼も少し怖かったみたい。後々何が起こるんだろうって。
だけど、数日経っても、何ともないわけ。それで、福沢、
「ソリャ見たことか、兄(にい)さんが余計な、あんなことを言わんでも宜(よ)いのじゃ」
と、ひそかに考えたらしい。
だけど、そんなことをみんなに言ったが最後、母さんにも姉さんにもきっと怒られるだろう。ええい、黙っておけってんで、黙っていたということらしいのね。
やっぱ、えらい人は、やることが違うわぁ。
—(村人A)……えらいんじゃなくて、単なる悪ガキ、クソガキって気もしますがね。



















