へるめす通信24
—(ジョルジュの孫)具体的に言いましょ。例えばね、聖書には書かれていない私が考えた仮定の話なんだけど、カインは、アベルの殺害後、エデンの東のノドの地に追放された時、そこで、まるまると太った羊を見ることがあったかもしれないじゃない?
—(村人A)まあ、あったでしょうね。なんか強引だけど、あったということにしておきましょう。あっしは、心が広いんですよ。へへっ。
—(ジョルジュの孫)あなたの心が広いんじゃなくて、そうしないと話が進まんのよ。ま、いいや。とにかく、エデンの東にいる羊って、普通の人、例えばカインの奥さんにとっては、別段、変なところもない単なる太った羊よね?
—(村人A)まあ、そうでしょうね。で、その羊が何か?
—(ジョルジュの孫)つまりね、その普通の羊は、カインの奥さんにとっては、単なる食料かもしれないけれど、カインにとっては、とっても重要な意味を持つものになるわけよ。なんたって、太った羊はかつて弟のアベルが神様に供えたもので、ここから一連の事件が始まっているでしょ。
要するに、カインは羊を見たくないかもしれないってこと。羊を見ることによって、心の奥底にしまったアベル殺害の記憶、神様に認めてもらえなかった辛い記憶が呼び起こされてしまうかもしれないじゃない?
—(村人A)なるほど。まあ、ありえますね。
—(ジョルジュの孫)でしょ。そうすると、どうなるかというと、カインは羊に対して、普通の人とは違う、過剰とも言うべき反応をするかもしれないわけ。例えば、羊が目の前を通りすぎてるのに全く気づかないとか、羊の肉が食べられなくなるとかね。
—(村人A)えー。そうなんですか! 羊の肉が嫌いになるってのは、わからないわけでもないけど、羊が見えてないってことも、あるんですかね?
—(ジョルジュの孫)よくあるのよ。だけど、ホントにその人に羊が見えてないかどうか、周りの人はそもそも調べようとも思わないから、わからないだけでね。
—(村人A)そんなもんなんですか? へぇ。
—(ジョルジュの孫)つまりはこういうこと。嫌な記憶、忘れたい記憶を思い出したくないばかりに、人は、あるものが見えなくなったり、食べられなくなったりするの。あるいは、自分で、見ない・食べないというふうに、決心したりするの。自分でもそれと気づかないうちにね。
人間には、対象こそ違えど、多かれ少なかれ、この傾向があるの。
まあ、もう少し言えば、見ていないというよりも、見た対象を意識から外してしまうってことだと思うけど。
—(村人A)じゃ、日光の東照宮にある「見ざる、言わざる、聞かざる(見猿、言わ猿、聞か猿)」って、過去の経験に苦しみ抜いた猿の姿ってこと?!
あぁ、なんてかわいそうなお猿さん!!
—(ジョルジュの孫)そりゃ、考えすぎ……。あなた、猿より自分のこと、省みたらどう? とっても変な人だから、きっと何かあったわよ、過去に。



















