« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »

2007年5月の8件の記事

2007/05/31

神話学の講座、募集開始です

2007年7月から始まる東急セミナーBE青葉台校の「神話学」の講座ですが、昨日から募集を開始しました。

Sinwathirashi_2   ←こちらは、講座のチラシ。
(クリックすると、画像が大きくなります。)

チラシ左上の、舌を出しているのは、ギリシア神話のメドゥーサです。

メドゥーサのことは、『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』にも載っていますが、このチラシの絵は、本の中で仙田聡さんが描いたものではなく、紀元前5世紀のギリシアの壺に描かれているものです。

(壺絵の出典は、C. Scott Littleton(ed.), “Mythology”,Thunder Bay Press,2002, p149 です。)

ちなみに、メドゥーサとは、その顔を直接見た者をひとり残らず石にしてしまうという、三人の女怪のひとりです。三人の中でたったひとり、不死ではありませんでした。

大きな牙に、生きた蛇の髪の毛が特徴です。
そして黄金のつばさで空を飛ぶと言われています。

チラシの絵の中で、彼女の顔のまわりのナルトの模様みたいなのが、髪の毛の生きた蛇を表しています。

ところで、このメドゥーサを退治したのは英雄ペルセウス。

彼は、石にされないために、メドゥーサの顔を自分の盾に映しながら、彼女に近づき、首を切り落としたのです。

ところで、この切り落とされたメドゥーサの首、その後、どうなったと思いますか?

実は、ギリシア神話の戦の女神、アテナの持つ盾の真ん中につけられた、ということです。

ラジオ収録の際にも話したのですが、私、このメドゥーサがなぜか大好きなのですね。

なぜ壺絵で彼女が舌を出しているのか、とても興味深いのです。

ということで、アテナの盾よろしく、私の東急セミナーの講座のチラシにも、メドゥーサの顔をつけてみました。

この講座にご興味のある方は、7月28日(土)10:30〜12:00、青葉台の教室でお会いしましょう。

2007/05/29

2刷です!

「とざい・とーざぁーぃ」
 
うれしいお知らせで御座います。

今月出版されたばかりの

『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』。

なんと! このたび、

あっという間に2刷りの決定と相成りました。\(^O^)/

これも、ひとえに皆様方の
ひとかたならぬご贔屓のたまものと、
心より感謝申し上げる次第です。

今後とも、なにとぞ、なにとぞ、
よろしくお願い申し上げます。  m(__)m

2007/05/27

(2)「聖剣の謎」の巻ー北欧・ヘイムダルの剣ー

なぜ私がしつっこく神話の出典にこだわったのかというと、それは、実のところ、『「世界の神々」がよくわかる本』の監修を引き受けたときの、苦い経験があったからなのです。

それは、北欧神話に出てくる「ヘイムダル」という神が使う剣の名前に関することでした。

ですが、これがどういう経験だったかを述べる前に、まずは、それがどういう状況からもたらされたのかをお話ししておきましょう。

これは『神々』の監修をしてわかったことなのですが、ある意味、神話学者(というより、ずばり私)以上に、神話に登場する神々やモンスターや剣などの名前に詳しい人たちが、世の中にはたくさんいるのです。

その理由は、ゲームやライトノベル、ファンタジー小説などの中で、神話のモチーフが頻繁に使われていて、それに触れている人にとっては、あまりにも身近になりすぎているからだろうと推測します。

そうそう、こんなことがありました。

ある授業の時に、私は、思想家ハンナ・アーレントの本から、

近代の宗教の基礎に流れている感情は「神は死んだ」という感情だ
(ハンナ・アーレント2003[1994]『精神の生活 上 第一部思考』佐藤和夫訳、岩波書店、p12)

というヘーゲルのことばを紹介したのです 

(ちなみに、「神は死んだ」と最初に宣言したのは、通常はニーチェだと思われていますが、アーレントによれば、ヘーゲルだということです。)

ところが、このヘーゲルの言葉を紹介すると、学生の中には、目をキラキラさせながら、何度も頷いて聞いている人がいるのです。

いったいぜんたい、日本人に理解しがたい、こんなに難しい事柄を、なんでそんなにうれしそうに聞いているのかと思ったら、後からわかったことですが、なんと神の死とは、ラノベ(ライトノベル)に出てくる事柄だった! 

ここでちょっと注意しておくと、ラノベの中に出てくる「神は死んだ」と、ヘーゲルやニーチェの「神は死んだ」は、使用されている言葉は同じでも、その意味内容は全く別のものなんです。

ヘーゲルやニーチェの「神は死んだ」は、キリスト教のみならず人間の生き方の根幹にかかわる、非常に大きな問題です。

つまり、神(=存在の意味を与えるもの)が死んだのであるならば、人間は何のために道徳や規律を守っているのか、わからなくなるわけです。

むしろ、道徳なんか守る必要など、ないではないかという議論が成り立つ。

なぜなら、道徳的にめちゃくちゃであったとしても、裁かれるのは現状の人間界に法によってであって、死後、神によって裁かれることはなくなるわけです。

とすると、現状の法律に触れなければ、何をやってもよいのではないか。

そういう切実な問題が「神の死」という事態によって生じるわけです。

ですから、ヘーゲルやニーチェのいう『神の死』は、私のようなキリスト者でない者にとって、心の底から理解するのが非常に難しい事柄だと思うのです。

だから、ほとんどの学生にとっても、この問題はきっと難しいんだろうなあと思いながら、授業で話すわけです。それなのに、学生はなぜか興味津々の様子。

つまり、学生にとっては、「神の死」や「世界の終わり」は、非常に身近な、ある意味で面白く、心浮き立つ事柄なのです。

学生にとっては、ライトノベルや漫画の中で、「神は死んだ」とか、ラグナロク(世界の終わり)という神話に題材をとったモチーフが頻発するので、とにもかくにも、それと関連づけて、ヘーゲルやニーチェの問題を理解しようとするんです。

そういう学生にとって「神の死」は、人間の生き方、さらにいえば今の自分自身の生き方とは、全く関係を持たない事柄になってしまうわけです。

話を元に戻しますと、『神々』の監修の時に、私が驚いたのは、

そんなふうに漫画やゲーム、ラノベで神話を身近に感じるようになった人たちが多く出てきたということ。

そして、そういう人たちが、インターネット上のホームページやブログで、ものすごーく気合いの入った、神々やモンスターなどの一覧リストを掲載しているということ。

この二つでした。

私も細々とブログを続けているので、よくわかりますが、ひとつの記事を掲載しようとすると、だいたい小一時間から二時間、多いときではそれ以上かかります。

だから、その膨大なリストを作るのに、どれだけの時間がかかることか……。
そう思うと、その熱意に本当に頭が下がるのです。

ところで、神々やモンスターなどが掲載されているホームページの神話リストを見ていると、その情報源の中に、必ずと言ってよいほど、新紀元社から出版されている“Truth in Fantasy シリーズ”の本があるということがわかりました。

新紀元社のこのシリーズ、私自身、存在は知っていたのですが、実際に読んだことはありませんでした。

正直に言いますと、『神々』の監修の際に、執筆陣がこのシリーズを参照していたため、初めてその内容を見たのです。

さて、問題はここからなのですが、『神々』に関連する項目をチェックしている時に、どうもここの記述は事実と違うなあ、と思う箇所にたびたび出会いました。

そして、これは、どの本を参照して、出てきた間違いだろうと思って、執筆陣が参考した文献を確認しました。

すると、だいたいがこの新紀元社のシリーズで、その中には決定的といっていい間違いがあることを知ったのです。

一例を挙げてみましょう。

新紀元社の“Truth in Fantasy シリーズ”の中に、『聖剣伝説』という本があります。その中に、北欧神話に登場するヘイムダルの剣について、以下のように書かれています。

ヘイムダルは、北欧の神々が住むアスガルドの入り口に常に座っている門番である。彼の剣ブルトガングは、彼の鋭い眼力とともに、アスガルドへやってくる巨人や怪物と戦う準備をしていた(佐藤俊之とF.E.A.R1997『聖剣伝説』新紀元社、p34)

そして、この『聖剣伝説』という本の巻末には、参考文献一覧がついています。そのリストの一番最初に、北欧神話の原典の翻訳である『エッダー古代北欧歌謡集ー』(谷口幸男訳、新潮社)が挙がっているのです。

ですから、『聖剣伝説』を読む読者は、執筆者が、原典である『エッダ』を読んで書いているのだろう、と思ってしまう。そして、みんな、ヘイムダルの剣の名前がブルトガングであることを信用してしまうわけです。

ところが、『聖剣伝説』で参照しているはずの『エッダ』の邦訳を実際に見てみると、ヘイムダルの剣の箇所は、次のように書いてあるだけなのです。

ヘイムダルという神がいる。<白いアース>とも呼ばれている。この神は偉大で神聖だ。(中略)彼は神々の見張りで、山の巨人らから橋を守るために天の隅にいるのだ。(中略)ヘイムダルの剣は<頭>と呼ばれている。(「ギュルヴィたぶらかし」27、『エッダー古代北欧歌謡集ー』谷口幸男訳、新潮社、1973、p247)

ということで、『エッダ』の翻訳を見ると、ヘイムダルの剣は、ブルトガングではなく、<頭>と呼ばれていることがわかります。

要するに、ヘイムダルの剣をブルトガングというのは、間違いなんです。

ここまでの話は、実はインターネット上で、かなり盛り上がっている事柄なので、興味のある方は、検索エンジンで「ブルトガング」を入力してみてください。かなりたくさんのホームページが出てきます。

それらを見てみると、ヘイムダルの剣の名前がブルトガングであるという『聖剣伝説』の記述そのままのホームページがかなりあります。

そして、それに対して間違っているという指摘が飛び交っているページもあります。ブルトガングがいったいどこから出てきたのか、かなり詳しく推察しているページもあります。

つまり、間違いが広まっている一方で、その間違いを指摘する行為も、インターネット上で、かなり行われているのでした。

ところで、私が冒頭で述べた『「世界の神々」がよくわかる本』での苦い経験というのは、このブルトガングに関係しています。

つまり、この『聖剣伝説』に依拠した記述、つまりヘイムダルの剣の名前がブルトガングであるという誤りの記述が、『神々』の初版の段階で残ってしまったということなんです。

 『神々』の時は、実質10日間という、とにかく時間のない中での原稿チェックだったので、訂正はしたつもりだったのですが、いろいろなところに思わぬ誤りが残ってしまったというのが正直なところです。

(初版を買って下さった方、本当にごめんなさい。この訂正については、私のブログ内の「著書などの訂正」の箇所に載せてあります。またその後の増刷で、できる限り誤りを直してあります。この失敗を踏まえて、『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』では、チェックのための時間をできる限り多くもらうようにし、約5ヶ月かけて、がんばってチェックしたつもりです。)

幸いなことに、こんな誤りがあったにもかかわらず、『神々』の初刷はあっという間に売り切れ、二刷のお知らせが来たのです。

そこで、私は、二刷ではできるかぎり正確な記述を反映させようと思い、ヘイムダルの剣について、さらにいろいろと調べることにしました。

その結果、この剣については、少なくとも、二つの解釈があることがわかりました。

<1>(それが何を指すかはわからないけれども)とにかく何かの頭が、ヘイムダルの剣と呼ばれているという解釈。

スノッリのエッダ(散文のエッダ)の翻訳をこの方向で行っているのが、『北欧神話』の著者である菅原邦城さんや英訳者のヤングです。

ちなみに、エッダには二種類あります。
一つは、古代北欧語で書かれているエッダ。
もう一つは、十三世紀にスノッリ・ストゥルルソンが書いた詩学入門書としてのエッダ。

前者は、「古エッダ」、ないしは「韻文のエッダ」と呼ばれ、後者は「スノッリのエッダ」ないしは「散文のエッダ」と呼ばれます。

まず、ヤングの英訳を見てみましょう。この「スノッリのエッダ」に書かれている、ヘイムダルの剣の箇所を、次のように翻訳しています。

頭の名前はヘイムダルの剣である。
=A name for the head is Heimdall's sword. 

(Snorri Sturluson,1992[1954]“The Prose Edda”, translated by Jean I. Young, University of California Press, p54)

 

この文自体、現在の私たちでは、どういうことを述べているのか、よくわからない文だと言えます。

菅原氏の邦訳もこれと同じで、「頭は『ヘイムダッルの刀」と呼ばれている。」となっています(『北欧神話』東京書籍、1984、p227)

何かの頭がヘイムダルの剣と、単に呼ばれているのでしょうか?

それとも、ずばり何かの頭が剣の機能を担っているのでしょうか!? 

少々分かりづらいのです。

ところが、もう一つ、どちらかというとわかりやすい解釈があります。それが、

<2>ヘイムダルの剣が「(人間の)頭」の意味であるというもの。

この解釈の出所は、私が信用している二つの辞書です。そこには以下のように書かれています。

・彼(ヘイムダル)の馬はグッルトップと呼ばれ、彼の剣はホーフンド(頭)と呼ばれている。
=his[=Heimdall's] horse is called Gulltopp and his sword, Hofund(head).

(A. S. Mercatante & J. R. Dow, “The Facts on File Encyclopedia of World mythology and Legend (2nd Edition)”, vol.1, Facts On File, Inc. p412)


・ヘイムダルの剣は、ホーフド(人間の頭)と呼ばれている。
=Heimdall's sword is called Hoefud(man-head).

(Rudolf Simek, “Dictionary of Northern Mythology”, trans. by Angela Hall, D. S. Brewer., p135 ただし、Hoefudは英語の表記に直してある。)

つまり、この二番目の解釈によると、ヘイムダルの剣は、ホーフンド(もしくはホーフド)と呼ばれており、(人間の)頭という意味であることがわかります。

これは、先に挙げた『エッダ』の邦訳とも一致します。

そこで、私は、『「世界の神々」がよくわかる本』の二刷では、こちらの二つの辞書の記述を採用し、ヘイムダルの剣の名前を「ホーフンド(頭)」と記しました。ただし、これはヘイムダルの剣の正式名称ではないようです。

ということで、剣の名前一つとっても、実際、調べるのはたいへんな作業なのです。

 

2007/05/11

収録、終わりました!

ついに終わりましたー! 『ラジオ版 学問ノススメ』の収録が。

こういうメディアに出演するのは、全くはじめてだったので、
何から何まで興味津々。

そして、私の予想を裏切ることがたくさんありました。

例えば、パーソナリティの蒲田健さんと二人で
話を進めていくということだったので、
私は完全フリー・トークを想像し、
「大丈夫かァ、言葉に詰まったら、どうしよう……」と
心配しておったのです。

ところが、実際には、事前に
「こういうことを聞きます」という質問の紙をいただくので、
予め準備ができるということを知りました。

では、どんな質問があったか、その一部を書いてみますと、

・『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』に出てくる
 神獣・モンスターのセレクトのポイントは?

・お気に入りの神獣・モンスター、ベスト3は?

・なぜ現代、こんなにも神獣・モンスターが人気を集めているのか?

・なぜ神話学者になったのか?

・今後の出版予定は?

・これまでで一番思い出に残る先生は?

などなど。

そして、肝心の収録なんですけれども、
蒲田さんが私の話をうまくすくい上げてくださり、
本当にあっという間に過ぎていきました。

収録後には、収録の中でお話ししたことで再度盛り上がり、
活気に満ちた雰囲気だったと思います。

みなさん、本当にお世話になりました。m(__)m

さて、肝心の放送日ですが、
6月17日の週に決まりました!

上記の質問に私がどう答えたか、お聞きいただければ幸いです。

ちなみに、放送される地域と時間は、
以下のようになっています。
以下の地域にお住まいの方で、
もし興味のある方がいらっしゃいましたら、
事前に放送日をチェックしていただければと思います。

・東北
   FM岩手(6月17日、9:00−)
   ふくしまFM(6月17日、9:00−)

・信州/北陸

 FM新潟(6月23日、5:00—)
 FM福井(6月17日、18:00—)

・東海
 K-MIX(静岡)(6月23日、4:00—)
 岐阜FM(6月17日、9:00−)

・近畿

 FM滋賀(6月17日、9:00−)
 KISSFM(兵庫)(6月17日、9:00−)

・中国/四国

 FM山陰(6月17日、9:00−)
 FM岡山(6月17日、9:00−)
 FM香川(6月17日、9:00−)
 FM徳島(6月17日、9:00−)
 FM高知(6月17日、22:00—)

・沖縄
 FM沖縄(6月17日、9:00−)

これ以外の地域にお住まいの方々には、
番組のホームページに音声ファイルがアップロード
されるとのことです。

この『ラジオ版 学問ノススメ』は、
これまでにもたくさんの方々が出演されていて、
ポッドキャストで過去の放送も聴けるようになっています。

2007/05/09

今が旬!

なぜだか、このブログへのアクセス件数が異常に増えているなあ、と思いきや。

テクノラティの「最新の話題(今、最も検索されているキーワード)」で、
「東ゆみこ」が第6位になったというのです!

(O_O)

何で私が??? 

だって、検索ワード1位は、辻ちゃんですよ。元モー娘。の。

いえ、でも、だと思っているのは私だけで、
もしかすると、私と同姓同名の「東ゆみこ」さんが
検索されているのかもしれません。

ですが、いずれにせよ、何がおこったのか、さっぱり不思議です。

そうはいうものの、自分のことだと思いたいので、
記念のファイルを以下に載せておきます。

「HY.html」をダウンロード

2007/05/03

(1)「キャロル・ローズ」の巻—ヨーロッパ・キマイラ—

とにかく、監修をしていて、これは困ったと思った本が、何冊かあったことは確かなのですが、まず述べてみようと考えたのが、キャロル・ローズ(Carol Rose)の『世界の怪物・神獣事典』です。

この本は、神獣やモンスターを調べる際に、誰だって一度は参照する事典だと思います。

大学に行けば、りっぱに図書館の参考室に並べられて、「禁帯出」のシールが貼られています。

ところが! この事典にはいくつか問題があることに気付きました。

確かに、この事典の監修者である松村一男氏も、ローズの本にいくつか間違いがあったことを記しています。

が、キャロル・ローズのこの本、実は参考文献の項目にも間違いがあるようなのです。

例えば、ローズの本には、必ず、特定の項目の最後に、その情報のもとになった参考文献が記されています。

ですから、彼女の本を手に取る人は、参考文献がこれだけ充実しているのだから、この本は信頼できる、と思いこんでしまうわけです。

ところが、彼女の文献情報が、私の調べた項目に関する限り不正確だったのです。

これからそれについて述べていきたいと思います。

キャロル・ローズの本、とりわけ『世界の怪物・神獣事典』を信じられなくなった決定的な理由は、実は、彼女の本拠地ともいえるヨーロッパのキマイラ(Chimaira)またはキマエラ(Chimaera) ないしはキメラ (Chimera)に関することでした。

キマイラ(キメラ)といえば、RPG史上の大ヒット作『ドラゴン・クエスト』シリーズの「キメラの翼」でおなじみです。

(私もむかーし、むかしのことですが、ドラクエをやったときに「キメラの翼」のお世話になりました。)

ですが、ギリシア神話に登場するキマイラは、翼は持っておらず、ライオンの頭と、蛇もしくはドラゴンの尾、それに山羊の胴体を持つ怪獣なのです。

ところで、キャロル・ローズのキマイラ、およびキマエラ(Chimaera)に関する項目を見た私は、しばし考えた末に、

「(?_?)エ?」

となりました。

なぜって、キマエラの参考文献に挙がっていたのが、
“Studies in Cheremis : The Supernatural”
という本だったからです。

Photo_45
(←現物はコチラ)











で、みなさんは「この本のどこが悪いの?」と思われるかもしれません。

それは、ズバリ、タイトルの「Cheremis」という言葉なのです。

私も一瞬、見間違えましたが、よーく見て下さい。

この「Cheremis」

キマエラ(Chimaera)でもキマイラ(Chimaira)でもなく、

「チェレミス」

ですから、このタイトルは『チェレミスに関する研究:超自然的存在』とでも訳しておけばよいでしょうか。

ようするに、彼女がキマエラの参考文献として挙げている本は、ロシアでマリとも呼ばれている「チェレミス族」に関する研究の本だったのです。

なんで、ギリシア神話の「キマエラ」がロシアに?

そんな疑問も浮かびましたが、今度も、これまた国内では稀少本である
“Studies in Cheremis : The Supernatural”を、取り寄せてみたのです。

ところが、ところが、あまりにも当然といえば当然のことではありますが、この本には、「キマイラ」に関することは載っていないのです。

なんたって、索引を見るかぎり、動物(Animal)とかクマ(Bear)、吸血鬼(Vampireヴァンパイア)なんていう項目まであるのに、「キマイラ」だけは載っていなかったんですから。目次を見ても、どうも載っている様子はありませんでした。

このあたりの経緯を絵文字で表すと、私の表情はこんな感じになります。

 (・o・) → (・O・; → (-_-#)

ということで、私はキャロル・ローズの本の参考文献は信憑性がないと判断せざるを得ませんでした。(この他にも、例えば確認可能な一次資料に当たっていないとか、いろいろあるのですが、これ以上書いてもあまり面白くないので、このへんで。興味のある方はご自分で調べてみてください。)

ところで、キャロル・ローズの本を信用してしまう理由ですが、そのひとつにはおそらく、彼女がキマイラならキマイラという項目の末尾に必ず出典の番号を挙げ、本の最後に文献の詳細な一覧を載せているからだと思われます。

つまり、彼女は、学術的な形式という点に関しては、完璧な体裁を整えているのです。

だから、でしょうか。

欧米のアマゾン・コムを見る限り、キャロル・ローズのこの本に対する批判は、きちんとした形ではなされていません。

また、専門家も誤りを指摘していないのではないかと思えます。

というのも、私が入手した彼女の英語の本は、初版でないにもかかわらず、上記の間違いが訂正されていないからです。(ただし、本を編集する際に、参考文献の順番を間違ったという可能性もあります。 )けれども、少なくとも、ローズの本の項目と参考文献が不一致であり、訂正されていないという点は、間違いないようです。

【註:参考文献の順番が間違っているのではないか、という指摘は、toroiaというハンドルネームの方からいただいたものです。その後、調査したところ、キャロル・ローズの参考文献がずれていたことが判明しました。「THE ILLUSTRATED WHO'S WHO IN MYTHOLOGY 」という本には、確かに「CHIMAERA」が載っていましたので、お知らせいたします。早期の訂正を願っています。】

ところで、今回私が監修した『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』。

手前味噌を並べるようではありますが、項目の数はローズの本よりも劣るとはいうものの、内容に関してはかなり良いものになっているはずです。

なぜなら、掲載されている全ての神獣・モンスターについて、可能な限りチェックを行ったからです。

紙幅の都合で本には全ての参考文献を載せられませんでしたが、私が全て入手・コピーした参考文献の一覧をPDFファイルでアップしておきます。

興味のある方はご覧ください。

「MonsterBib..pdf」をダウンロード

ちなみに、ここに載せた文献については、全ての関連項目に目を通しました。

なぜこんなに数が多いかというと、一冊の本で調べたのがほんの少しの事柄だけというケースがたくさんあったからです。

例えば、北米のスー族の伝承に登場する「イクトミ」は、スー族の言葉で「蜘蛛」を意味することが、『神獣・モンスター』のp112に書かれています。

これを確認するために、私はラコタ語の辞書(“Lakota dictionary”)を探しあて、その辞書を所蔵している大学に出向き、当該箇所を見つけ、コピーするという手順を踏みました。ちなみに、スー族の別名はラコタ族です。

2007/05/02

『神々』25刷、出ました。

『「世界の神々」がよくわかる本』、ついに25刷が刊行されました。

25刷……、いやー、実際この数字はすごいとしか言いようがありません。

これが自分ひとりで書いた本だったら、どんなにいいかと考えることもありますが、でもでも、こんな経験、誰もが出来るというわけでもないのです。

なんといっても、学術書の初版の発行部数は、売れている学者でなければ、だいたい800部から2500部。そして、初版を出して終わりというのが普通です。

ですから、25刷、25万部というのは、非常に恵まれた経験だとつくづく感じますし、本当にありがたいなあと思うのです。
感謝、感謝…… m(__)m

そして、今日、『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』が出ます。
セブンイレブンなどのコンビニでも発売されますので、書店もしくはコンビニなどで、お手にとっていただけますと幸いです。



2007/05/01

(0)『神獣・モンスター』外伝

いよいよ、2007年5月2日、『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』が出版されます。

前回の『「世界の神々」がよくわかる本』に続いて、二度目の監修作業にたずさわりましたが、今回の本は、前回以上に、類書と比べても内容が充実した正確なものになったと思っています。

ところで、監修作業をしていて、とにかく驚いたのは、神獣やモンスター(怪物)、幻獣といったものに関して、不正確な情報がかなり広まってるということ。

なぜそういう状況になってしまったのかというと、偽の情報が、次のような順序で広まっていったからだと思います。

(1)何人かの著者が、ゲームやアニメや小説や事典などの誤った情報を信じ込み、真偽を確認しないまま書籍を書いてしまった。

(2)その本に載っている誤った情報を、読者がホームページにそのまま書き写す。

(3)さらにそのページを見た人が、自分のホームページにその情報を書き写す。時には、本の執筆者がそのホームページを参照し、(1)と(2)の情報が同じ内容なので大丈夫と思い、本に反映する……。

というような形で、間違いの連鎖的な増殖が繰り広げられているのです。

そこで、今回の『神獣・モンスター』では、

「あまりにも広まっていて、それが当然と見なされているけれども、実のところ事実と違う」

という箇所を、とにもかくにも、私は徹底的にチェックすることにしたのです。

そして時間の許す限り、書籍の参照のできる限り、信頼できる資料を参照して確認しました。

けれども、私の知り得たこれらの情報は、紙幅の都合などもあって、残念ながら、本の中に明確な形で反映することがかないませんでした。

ということで、このブログで、私の知り得た情報を、断続的ではありますが紹介していきたいと思います。

私の情報がみなさんのお役に立てば幸いです。

« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »

Amazon

無料ブログはココログ