« 『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』の訂正一覧 | トップページ | 『神獣・モンスター』3刷、決定! »

2007/06/07

(3)生物分類法の巻ー「中国」・『西遊記』ー

今回は、ちょっと複雑な動物の分類のお話。

中国の明(みん)の時代に完成した、ご存じ『西遊記』に、
面白い動物の分類が出ています。
少し読みづらいですが、まずは以下の文章をご一読ください。

まず五仙がある。すなわち天、地、神、人、鬼。
次に五虫がある。すなわち(ら)、鱗、毛、羽、
(『中国古典文学体系 西遊記(下)』太田辰夫・鳥居久靖訳、1972、平凡社、p80)

この引用の何が面白いかというと、私も初めて知ったのですが、
五虫の「虫」とは、動物の総称だということなのです。

ですから、五虫というのは、五種類の動物のこと。

では、その五種類の動物を、わかりやすく説明してみましょう。

まずはじめに、「臝虫(=裸虫)」とは?
それは、なんと人間のことなのです。

(つまり、私もあなたも裸虫(らちゅう)なのですね。
ラオチュウじゃありませんことよ。おほほ。)

そして、「鱗虫(りんちゅう)」とは、魚のこと。
「毛虫」とは、もじゃもじゃのケムシではなくて、獣のこと。
「羽虫」とは、ハムシではなくて、鳥のこと。
「昆虫」は、紛れもなく昆虫のこと。

ちなみに、『西遊記』の五虫には含まれていませんが、
「甲虫」という言葉もあります。
これは、カブトムシではなくて、亀のことです。

さて、『西遊記』の中では、
この五仙(天地神人鬼)と五虫(臝鱗毛羽昆)をあわせて、
「十類」と呼んでいます。
(『中国古典文学体系 西遊記(上)』太田辰夫・鳥居久靖訳、1972、平凡社、p32注一)

ところで、『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』を監修していた時に、『西遊記』のこの箇所について、以下のように言及している文献を見つけました。

「天地神人鬼」そして「鱗毛羽昆」というのは、『西遊記』に出ている十類、五仙、五虫と呼ばれる“生物の分類法”である。つまり、明の時代に行なわれていた生物の分け方だ。
   (實吉達郎「解題」『中国の鬼神ー天地神人鬼』新紀元社、2005年、p2)

この實吉氏の引用も、基本的には『中国古典文学体系』版の『西遊記』の分類にのっとっているのですが、違う箇所があります。

それは何かというと、實吉氏の五虫の項目に注目してください。
鱗毛羽昆」となっています。
『西遊記』の分類では「鱗毛羽昆」となっていました。

つまり、『西遊記』の人類をあらわす臝(ら)が抜けて、「甲」という項目になっているわけです。

(もちろん、『西遊記』の版本によっては、實吉氏が書いているように、「甲鱗毛羽昆」という記述があるのかもしれませんが。が、少なくとも、平凡社の『中国古典文学体系』版の『西遊記』では、そうはなっていませんでした。)

ところで、實吉氏はなぜここで「甲」という分類を入れてしまったのでしょうか。

確たる証拠はないのですが、おそらく中国古代の思想書である『淮南子(えなんじ)』の記載と関係しているのではないかと思われます。

『淮南子』には、動物の始祖として、次のようなものが挙がっています。

「バツ」(=人類の始祖)
「羽嘉(うか)」(=鳥類の始祖)
「毛犢(もうとく)」(=獣類の始祖)
「介鱗(かいりん)」(=魚類の始祖)
「介潭(かいたん)」(=亀類の始祖)
(『中国古典文学体系 淮南子・説苑(抄)』戸川芳郎・飯倉照平訳、平凡社、1974年、p56。ただし、バツは漢字表記ができませんので、カタカナにしてあります。)

つまり、實吉氏の「甲」はこの「淮南子」の亀類のことではないかと思われるのです。先ほども述べたように、「亀」は「甲虫」とも呼ばれています。

整理しますと、『淮南子』の亀類が、『西遊記』の中では「」と変化しているのです。そして、實吉氏の本の中では、人類(=臝(ら)が消えて、『淮南子』の亀類、すなわち」が復活し、「」と共に記載されているということなのです。

一覧表にまとめてみましたので、こちらのファイルをご覧下さい。
「gochu.pdf」をダウンロード

いやー、今回はややこしかったですね。

最後までおつきあいいただいた方、ありがとうございました。
では、また。

« 『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』の訂正一覧 | トップページ | 『神獣・モンスター』3刷、決定! »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

Amazon

無料ブログはココログ