各所から最新刊を送っていただきましたので、今日はその話を。
岩波書店・『思想』の互盛央(たがい もりお)編集長からは、最新刊の『思想』1016号 をいただきました。
今回は、文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロース特集。なんと、彼、今年100歳なのだとか。長生きですね。
今回の特集号は、レヴィ=ストロースのこれまで未邦訳の論考がかなり翻訳されていて分厚く、お買い得感、満載といった感じです。
さて、ざあっとですが、とにかく最後まで読んでみまして、私にとって特に面白かった論考を一つだけ挙げてみますと、レヴィ=ストロース自身の論考「われらみな食人種(カニバル)」。この論考の初出は1993年10月で、レヴィ=ストロースがもうすぐ85歳になろうとしていた頃のもの。しかし、とても85歳の論考とは思えません。
中身は、1956年にニューギニアで発見されたクールーをめぐるお話。クールーというのは、四肢がガクガク震えて、運動できなくなる病気で、私たちに馴染み深い言葉で言えば、狂牛病に近い症状を呈します。もちろん、狂牛病というのは牛がかかる病気ですが、実は、狂牛病に近い症状になる病気は他にもあり、牛以外の動物や人間もかかるそうなのです。
たとえば、羊がかかるスクレイピー、それから人がかかるクロイツフェルド=ヤコブ病、さらにはこのクールーがそれ。これらは、ほとんど同じ症例を見せるため、一体そこに共通するものは何かということが問題となってきたわけです。
で、そこに見つかったのは、あるウィルスだったのですが、では、いったいどのようにしてそのウィルスに感染するのか、その感染経路が次の問題として浮かび上がってきました。そして驚くことに、クールーの場合、それは、オーストラリアに統括される前の食人の習慣だったのではないかということです。
ここから先は、実際にレヴィ=ストロースの論考を読んでいただければと思いますが、食人の習慣によってもたらされた症状と、一見無縁とも思える最先端医療によってもたらされたものとが同じであるということ、そして食人が愛情と敬意の産物だったという点がたいへん面白かったです。
非常に短い論考なのですが、短くてもここまで論じることができるのかという、お手本のような論考です。こういう知的な文章に出くわすと、私の脳内がみるみるうちに活性化していく様をつぶさに味わうことができました。
なお、このレヴィ=ストロースの論考に出てくるクールー、それから食人について、さらに詳しく知りたいという方は、R. クリッツマンの『震える山 クールー、食人、狂牛病』(法政大学出版局)や、W. アレンズ『人喰いの神話』(岩波書店)なども、あわせて読まれてみてはいかがでしょうか。
もう一冊、いただいた本を挙げておきます。
監訳者の杉浦芳夫先生よりいただいた、『地理学の声 アメリカ地理学者の自伝エッセイ集』(古今書院)です。
これは、14人の(比較的)著名なアメリカの地理学者の自伝をまとめたもの。たとえば、『ポストモダニティの条件』(青木書店)で有名なデヴィッド・ハーヴェイや、『空間の経験』(ちくま学芸文庫)などでおなじみのイー・フー・トゥアンといった人物の自伝や自伝的講演録が載っています。
これも私は一晩のうちに読んでみましたが、自伝というのは、さまざまに読めるものであるということを痛感しました。
もとから興味を持つ人物ならば、その人がどういう経緯で今のような地位を築いたか、どういうものから刺激を受けたかというようなことを読みたいと思うし、あまり興味のない人物ならば、ところどころに出てくる有名人とのエピソードが気になるところです。
それに加えて、私自身は、その人が自分のことを語っているようでいて、個人的なエピソードの語りの中から当時の社会状況、時代状況が透けて見えるような、そういう記述が面白いと思いました。それと、自分のことを、あたかも他人であるかのように、客観的に観察しているような記述。
こういう記述を読んでいると、原文・翻訳を問わず、その人の真摯さというようなものが、読者にも必ず伝わるのだなということを感じました。ご興味のある方は、一読されてはいかがでしょうか。