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2009/05/17

自己実現のための勉強法(12)―「自分自身のテーマあるいは視野の広げ方」編(7)

自己実現のための勉強法の12回め。今回は、「自分自身のテーマあるいは視野の広げ方」の7回めです。

前々回から、自分の専門と異なるジャンルに触れながら、自分の中の井戸を何本も形成してきた人物として、山口昌男先生を取り上げています。前々回は先生が大量の書籍を購入しているという話、前回はこれだと思う著者の本は全て集めるという話をしました。

今回も引き続き、山口先生の井戸の多さの話、今回はとくにサブカルチャーに関するものになろうかと思います。

いつのことだったか、私と先生とで連れだって、映画の試写会に行った時のことです。その時は、まだ私は先生と連れだって、あちこちに行くようになってから間がない頃だったので、先生のなさることの何もかもが新鮮で、しかもどういうことをするのか、皆目検討がつかないという状態でした。

その時、JR線に乗ろうとして二人で改札を抜け、ホームに向かっていたのですが、足がだいぶ悪くなられていたため、先生は杖をつきながら、二人でゆっくりゆっくり歩いていたのです。ところが、先生はJRの構内にあるキヨスクの手前で、突然立ち止まり、私に向かって、「あそこにある新聞、買ってきて」と言ったのです。

(山口昌男先生のことだから、もしかして英字新聞か?!)と思った私は、「Japan Times ですか?」と先生に尋ねました。すると、先生は私の問いかけに答えず、一人で杖をつきながら前に進み、「これ!」と指さしたのです。

そこにあったのは、まんまるお目々のワンちゃん(いや猫だったかも?)のイラストもかわゆい、『ビッグコミック・オリジナル』。。。

「いや、先生、それは新聞ではありませんが。。」という呟きは私の口から出ることなく、私は先生から預かった300円で、その雑誌を買い、かばんの中にしまったのでした。

さて、本題はその後。やってきた電車に乗ると、電車の中は混んでいて、座席は満席、ちらほら立っている人もいます。ですが、車両の一番端の3人くらい座れる席に座っていた老紳士が、杖をついている山口先生に、親切に席を譲ってくださいました。

「いや、ありがとう」と先生。「ありがとうございます」と私。いえいえ、とばかりに横に首を振る優しげな老紳士。彼は、電車の入り口付近の金属製の手すりで囲われた小さなスペースのところに、もたれかかりました。

空いた席に、「どっこいしょっ」とすわった先生は、目の前で立っている私に向かって、こうおっしゃいました。以下、先生と私の会話。

山口 「ほれ、あれ」。

私   「へ?」

山口 「ほれ、今買ったやつ」。

私   「え? あのー、今買った、雑誌、のことですか?」。

山口 「そうそう、それ、それ。それ、頂戴」。

私   「あ、はい」

そこで、肩から下げているかばんから、買ったばっかりの「ビッグコミック・オリジナル」を取り出し、先生に手渡した私。すぐさま、1ページめから貪るように読み出す先生。その目は、ふだん見たこともないほど輝いています。

(普段の先生は、何かを考えながらモノを見たり読んだりしているようで、目が真剣なのですが、漫画を読んでいるときは本当に楽しそう。この楽しそうな目つきを私が見たのは、お孫さんへのおみやげのおもちゃを買っている時くらいでしょうか。)

で、ふと視線を感じた私が、姿勢をおこして、辺りをみまわしてみると、さきほど席を譲ってくださった老紳士が、漫画を読み出した先生を見て、露骨に眉をひそめているのです。

「気の毒だと思って、せっかく自分が席を譲ってやったのに、いきなり漫画を読みやがって……」というようなところでしょうか。すごく不機嫌そうなのです。

「すみません、この人、ただの漫画好きのおじいちゃん、ってわけじゃないんです。あの山口昌男なんです。わかっていただけないと思いますけど、許してください」と私。もちろん、心の中で秘かにつぶやきました。

でも、老紳士の批判的な目線の意味するところもわかるなあ、と私は思ったのです。

たしかに学生や若いサラリーマンが電車の中でコミック雑誌を読んでいる姿はしばしば目にします。けれども、今、目の前で、「ビッグコミック・オリジナル」を読んでいるのは、75歳を過ぎた、れっきとした白髪の老人。しかも、その目はきらきらとして、早く先が知りたくて知りたくてウズウズしているのは、誰の目にも明らか。

そして、ここがポイントなのですが、「えっ、漫画なんか読むの?」とでも言いたげな眼光鋭い老紳士と同世代であるわけです!

つまり、老紳士が言いたいのは、本当だったら、電車で漫画を読む若者を注意すべき年齢でありながら、いっしょになって漫画を読むとは何事だということなのでしょう。

今でこそ、漫画が好きですとか、漫画を研究しています、などと大手を振って言えるようになりましたが、山口先生の世代はまだ漫画を研究対象とすることには偏見を持つ人が多かったと思います。

もちろん、忘れてはならないのは、山口先生が読んでいるのは漫画だけでなく、同時に専門書も読んでいるということなのですが、私が見ていて感じたのは、本当に山口先生はアバンギャルドな人だということ。知的な面において、常に攻めの姿勢を忘れないということ。これにはたいへん感心します。

ちなみに、山口先生は、電車に乗っている時には、必ず何か本を読んでいました。今回の場合は、コミック雑誌ですが、古本目録であることも多かったです。時間活用術として、見習う必要があると思います。

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