古典と最近の読書 エスの系譜
10月から、東急セミナーBE青葉台校で、『古事記』の中巻を読む講座を担当しています。
『古事記』に対して、私はしばしば、なんともいえないつまらなさというか、「いつも同じ顔をしていて、もう飽きた!」と思う時があります。けれども、こういうセミナーなどで、ほんの少しづつ、じっくりと読み直してみると、また違う発見をしたりするのが不思議です。
それから、毎回の講座の最後に設けている受講生の方からの質問タイムでも、こちらがはっとするような質問を受けることがありますが、古典を読むって、本当におもしろいなあと感じるのは、こういう時。
ところで、東急セミナーBEの青葉台校の講座は、東京外国語大学での授業の後なのですが、多磨から青葉台への移動の合間に、電車の中と喫茶店での読書のひとときがあります。
そこで、今読んでいるのは、岩波書店『思想』編集長・互盛央さんからお送りいただいた、彼の最新刊『エスの系譜』(講談社刊)です。

『エスの系譜』のエス(Es)とは、フロイトが有名にした概念で、「私」といった意識を生みだしたり暗に私たちを動かしているかもしれない「それ」のこと。エスはドイツ語で、ラテン語だとイド(id)、英語でイット(it)です。
互さんは、精神分析学の中のこの重要な用語の系譜を辿りつつ、それが近代国民国家の成立と平行していたという事態を叙述しています。
デカルトを筆頭に、カントやニーチェ、フィヒテ、ラッセル、ウィトゲンシュタイン、ハイデガーといった哲学者たちのエスのみならず、ゲーテ、ランボー、ビスマルク、シュタイナー、ユングといった多様な人々の考えるエスも。
こういう人々の中で、エスはどのように位置づけられていたのでしょうか。まさしく、エスの問題圏について知るには、先ずはこの一冊からという本です。
ところで、私自身はこの本を読みながら、古代インドの「梵我一如」からナーガールジュナ(龍樹)に至る「私」に関する思索の流れと、近代ヨーロッパへの影響について考えていました。
それにしても、互さんは忙しいのに、昨年の『フェルディナン・ド・ソシュール』(作品社刊)に続く、精力的なお仕事を発表されて、本当にすごいですね。
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