小包の破損 森鷗外の干鮎
別に何かの必要があったというわけではないのですが、まんぜんと森鷗外の全集をながめていたら、明治33(1900)年9月1日の『二六新報』に掲載されたという、ちょっと面白い記事を発見しました。
鷗外曰く、「ある種の」小包郵便物だけが、いつも破損した状態で届くというのです。
鷗外が受け取る小包はだいたい3種類に分類できて、1つめは書籍、2つめは衣服、3つめは食品なのだそう。
このうち、1つめの書籍と2つめの衣服は、新聞紙に包まれたうえに、油紙がかぶせてあるという、ごくごく簡単な包装。
3つめの食品は、木の箱ないしはブリキの箱で、その上に油紙をかぶせ、なおかつ糸がかけてある、がっちり包装。
で、この3つの中で、どれがいつも破損した状態で届くかというと、……答えは、簡易包装じゃなくて、がっちり包装された3番目の食品なのだそうです。書籍や衣服は、簡易包装であるにもかかわらず、折れたり、シミがついたり、ということは全くない。
ところが、たとえば、鷗外の故郷・石見(いわみ)から送ってきた干鮎は、木の箱に入っていたのに、箱の角が折れ、外の油紙も局部だけ裂けていた。そして、中身の鮎が「すこぶるまばら」であったとのこと。
また、とうがらしの葉の煮たのをブリキの弁当箱に入れて送ってもらった時のこと。この場合は中身は無事だったのですが、ブリキの箱の一面が、鉄槌で打ったかのように窪んでいたとのこと。つまり、中身を取り出そうとしたことが明白だというわけです。
鷗外はこの犯人について、誰と推測しているわけではないのですが、この問題をとにかく世に訴えようと思って筆をとったと書いてあります。他の人も困っているだろうから、と。
これ、おそらく犯人は郵便局員でしょう。いつの時代でもこういう不祥事はあるのだなと思う一方、ブリキの箱に入っている「とうがらしの葉の煮たの」をこじあけてでも盗ろうとするところに時代を感じます。
ちなみに、当時は現代のように、小包の中身を表に記載していなかったようです。なぜかというと、鷗外がこう書いているからです。
書籍や衣服は紙包の外から探って見て直(すぐ)に書籍だ衣服だといふことが分る。食物は木や金(かね)の箱に入って居るから何だかわからぬ。外から分るものは傷まないで分らぬものは傷むのだ。(旧漢字は新漢字に直しています)
犯人は、中身がわからなくてやっているので、中身が「とうがらしの葉の煮たの」だとわかったら、盗らなかったのかな? わかっても盗ったのかな? そうすると、夕飯のおかずは、「とうがらしの葉の煮たの」なのかな? ……などと、あらぬ想像をめぐらしてしまいました。
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